調査

医療保険にもMNP(乗り換え制度)が必要だ - 解約返戻金が無い終身保険は何が問題か

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先日、ライフネット生命の岩瀬大輔さんによるがん保険のカラクリを読みました。

その中に、現在の主流の医療保険は多くが終身保障となっていることが触れられています。これに関する問題点として、医療事情が今後変わることが予想されるにもかかわらず超長期の固定契約をしてしまっていいのか、といったことを挙げています。これは、「保険会社」にとっての問題点だといえます。

本書の中には触れられていないのですが、終身医療保険には消費者にとってもうひとつ重大な問題点があると思っています。それは現在主流となっている終身医療保険は、その多くが「解約返戻金」制度を廃止しているためです。これの何が問題になるのでしょうか。それは、終身医療保険に加入した場合、一生涯保険会社を変えてはならない(変えた場合は損になる)ということになるのです。

これは、本書でも述べられている通り、終身の医療保険は「若くて健康なうちから多めに保険料を払込、高齢時に備えて積み立てていく」仕組みになっています。図にしてみると以下のようになります。

支払っている保険料のうち、純粋に保障をするために使われる「純保険料(ピンク)」と販売促進費用を含む業務遂行に必要な「付加保険料(グリーン)」とに分けて考えると、若くて健康な時分に必要な保険料(ブルー)よりも多めに支払うことで積み立てておき(薄い三角形のブルー)、将来年をとったときにその積立て部分も活用して保障を受ける仕組みになっています。

この保険に加入していて、担当者が変わってサービスレベルが悪化した、コールセンターの対応が悪くなった、もっと魅力的な保険を提供する会社が現れた、等の理由で別の会社に乗り換えたとするとどうなるでしょうか。

途中で乗り換えると、せっかく20代、30代で将来に向けて積み立てておいた部分(薄い台形のブラック)が、そのまま乗換える前の会社の収入になってしまうのです。将来に向けての積立がまたゼロからやり直しになりますので、通常であれば保険料が値上がってしまうことになります。

こうしたことを防ぐために本来は「解約返戻金」制度があったはずなのですが、「解約返戻金=貯金」だとミスリードされたまま低金利時代に突入したことや、とにかく見かけの保険料を下げるために一定の解約を見込んで安く設定された、低解約返戻金タイプや無解約返戻金タイプの保険が主流になってしまいました。実際、ライフネット生命の医療保険「じぶんへの保険」やオリックス生命の医療保険「CURE」シリーズには解約返戻金が設定されていません。

それでも「保険料が安くなりました!」という宣伝があふれていますが、この状況下で本当に保険料が安くなるパターンは2つしかありません。


一つ目のケースは、積み立て部分を捨てたとしてもお釣りが来るほど、もともとの保険会社の付加保険料が高すぎた場合です。要するに、とんでもなく高い保険に入っていたというパターンです。この場合は、乗り換えて誰も不幸にならない正解のケースだといえます。(が、やはり黒い部分は返して欲しいですよね)


もう一つのケースは、「保険の見直し」という言葉のマジックのもと、保障内容そのものを減らしてしまうことで純保険料そのものを減らして保険料が下がるパターンです。セールスマンに言われるがまま、不用意に高い保険を掛けているケースは多くあると思いますが、それでも保障内容が減ってしまうことを考えると、あまりいい気分ではありません。

だから、MNP制度(持ち運び制度)が必要だ

現状の、一度加入してしまうと二度と変更することができない(スイッチングコストが高すぎる)というのは、利用者にとってとても不幸な状況です。加入したときに担当についていたセールスマンが気に入っていたから加入したのに、保険会社の清新なイメージに惹かれたから加入したのに、あとになって状況が変わってもなお続けなくてはならないのですから。それに、新規参入した会社にとっても、他社からの乗り換えを促すことができません。

これと同様な状況にあったのが、MNP(番号持ち運び制度)を導入する前の携帯電話会社でした。一度ある会社と契約してしまえば、事実上二度と変更できませんでした(特に、仕事などシビアな状況で使っている場合)。今でも携帯の割賦販売や長期契約制度によって「2年縛り」と批判する向きもありますが、「一生縛り」と比べれば遥かにマシになりました。

保険業界においても、終身保険においては解約返戻金を義務づけるなり、何らかの「他社移管」が可能になるような制度を導入するなりして、乗り換えしやすくなって欲しいと思うのですが、みなさんはどう思いますか?

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